夕焼け色の駅前
ホームに電車がすべり込む音。
夕方になると、町の空気が少しだけやわらかくなる。
そんな時間に、駅前の小さなそば屋で、一人の少年が湯気を立てるラーメンをすすっていた。
匂いと湯気の記憶
木造の屋台には、のれんがふわりと揺れていて、
使い込まれた醤油差しと、束ねられた割り箸が、まるで昔からそこにあったようだった。
昭和の町には、こうした“当たり前”の風景があった。
学校帰り、部活帰り、仕事終わり――
立ち食いのそば屋は、そんな日々の隙間をそっと埋める場所だったのかもしれない。
言葉のいらない夕暮れ
店主は多くを語らず、少年も無言のまま箸を動かす。
そこには会話はなかったけれど、不思議と温もりが漂っていた。
「おつかれさま」や「がんばったね」が、
言葉ではなく湯気になって届く、そんな時間だった。
今はもうない風景だけど
もうその店はきっとない。
でも、匂いや音、光や影は、いまも記憶の中に残っている。
それが、あの頃の町並みを思い出す理由なんだと思う。
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